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一息 40【スピアの後裔記】入江探検(ぼくに「生きたい!」と思わせた不思議な時空。廃墟の公団型住宅)『離島疎開7』

7時ですよーォ♪
こんばんWaーァ。
ミワラ〈美童〉たちの元気が出る日記、後裔記です。

エスノキッズ 心の学問「自伝編」
令和2年10月10日(土)号


一つ、息をつく。


〔 入江探検(ぼくに「生きたい!」と思わせた不思議な時空。廃墟の公団型住宅)〕

冬が、攻めてくる。

「おーぃ」

階下から、シンジイの声が聞こえてくる。
軽く柔らかな足音が......。
あれッ?
遠ざかってゆく。
次に目覚めたときには、すっかり夜が明けていた。

カアネエと、遅い朝食をとる。
カアネエが、言った。

「もういちど呼ばれたら、返事をしようって思ったんだけどね。
次に聞こえてきたのは、遠ざかっていく足音だったってわけ」

仕事に行く気配、なし。
朝食が終わると、カアネエは、二人分のお弁当を作りはじめた。

ハンカチに包(くる)まれた弁当箱が、二つ。
ぼくのお気に入りのリュックサックに、収めた。
そいつを、ひょいっと背負う。


昨夜。
眠れぬ夜。
ぼくは、カアネエに提案したのだった。

「ねぇ。
あした。
探検しようよ。
入江」

それを聞いたカアネエの横顔は、微睡(まどろ)んでいるからなのか、いつになく子どもっぽい微笑みを浮かべているように見えた。
カアネエが、言った。

「あんた、眠れないのかい?

目が、見開いてるって感じ。
カッ!と。

口角も、上がってるね。
惜しみなく。

今のあんたみたいな顔を、普通の子等(こら)は、昼間に見せるんだよ。
なんであんたは、夜中なのさ。

夢でも、見てんのかい?
記憶の引き出しに大事に仕舞ってある〈好きな人〉に、毎夜毎夜、こっそり逢ってる......みたいなさッ!」

そう言い終わるが早いか否か、ぼくの家(部屋)の灯色(ともしびいろ)に染められた養母が、上体を起こした。
子どもっぽい横顔が、ゆっくりと旋回する。
まるで、錆びついた高射砲の回転テーブル。
養母艦カアネエが、密やかに高射砲を唸(うな)らせた。

「思い出した(バコーン!)♪

父さんに、唐突に、今のあんたみたくさ、何(なん)かを言ったとき、父さん、必ず、斯(こ)う言ったもんさ。

『なんで、今なんだッ!』

ってね」

カアネエの顔が、微笑み一色から、愉快愉快の多色刷りに変わった。
するとやにわに、また言った。

「ほらッ!

父さんに、そう言われるとさ。
あたいは、必ず、今のあんたみたいにさ。
一瞬、不服そうな顔を見せて、すぐにまた、元の満面の笑みに戻る。

その様子を、父さんが見て取ったのが、わかるんだ。
そしたら、あたいは、クルッと父さんに背中を向けて、自分ん家(ち)んなかに収まっちまう。
その間、無言。
自分ん家ってのは、今のあたいの、この部屋みたいなもんさ。

そんなあたいの様子を、黙って観察してた父さんはさ。
行動を伴わない(はいはい、やれやれ)から、(しょうがないなあ、まったく)っていう行動の兆しに変わるんだよ。

そこから、億劫(おっくう)で厭(いや)に感じるだけだった娘の思いつきが、「それも、悪くないかもな。まァ、やってやろうじゃないか」っていう、愉しみに変じていく。

そして父さんは、こう思うのよ。

(おまえたちの方が、本当の大人(おとな)なのかもしれないなァ)

ってね。

身体が大きくなるだけの〈大人〉ってさ。
人としての心得が、退化するんだ。

(後悔をバネにしながら、一時(いっとき)を一緒に生きた、婆ちゃんと父さん。
婆ちゃんは、それから、どうなったんだろう。
父さんは、これから、どうなるんだろう)

なんてさ。
自分んちに戻ったあたいは、そんな思いをあれこれ、巡らせたりしてさ。

今の、あんたみたいにねーぇ♪」

と、そう言い終わった養母は、再び、もごもごと横になって、厚手のブランケットに潜り込んだ。

すでに、冷える時間帯に突入していた。
ブランケットに包まって顔だけ覗かせた養母が、少し恥ずかしそうな表情をぼくの方に見せて、ペロンと一回、舌を出した。
その舌は、すぐに引っ込められ、その恥ずかしそうな顔も、ブランケットに覆われてしまった。


で、リュックを背負った続き。
昼どき。
ぼくとカアネエは、適当な場所を見つけて、弁当を広げた。

そのとき以外は、時おり歩を休めながらも、夕方近くまで歩き回った。

シンジイの夕飯の心配は、要らなかった。
なぜなら、晩酌......というか、夕酌の習慣があるからだ。
一人暮らしに、慣れ親しんできたせいだろうか。
養祖父のその夕酌は、支度から片付けまで、一貫して世話要らずだった。

仕事で帰りが遅いときも、カアネエは、晩ごはんの心配をする必要がなかった。
養祖父は、どうしても食べたければ、自分でなんとかするし、さほど、夜の食事に拘(こだわ)った様子がないのだ。
ぼくとて、晩ごはんが無い日は、二階の自宅から出なくても済むので、それはそれで、歓迎すべき事態だった。


さて、入江探検の成果は、如何に!
その、通勤通学や家事の心配から解放された自由人の二人が歩き回った、ある秋晴れの日の夕暮れ。
ある場所で、ぼくは、カアネエに言った。

「ねぇ。
ぼくたち、ここに住もうよ♪」

「出たよッ!

厭(いや)な予感。
その嬉嬉とした動き。
戯れるようなしぐさ。
無邪気な笑顔。

まるで、普通の子どもみたいに見えるよ、あんた!」

と、カアネエ。
まるで、賢明な拒絶を試みる児戯の少女。

ぼくは、〈断固! 譲らないぞ〉の構え。
カアネエが、また言った。

「いやだっつーのッ!

てかさ。
それ以前に、無理だし。
あんたの秘密基地にすりゃいいじゃん!

てかつっか、それも難しいつーかァ......。
まァ。そうだねぇ。

どうなんだっかねぇ」

と、苦し紛れというより、どうでもいいって感じ。
ともかく、ここが、〈養母子家庭〉となる可能性は、二人の戯れた言の葉に臥(ふ)したのだった。

とは言え、ぼくの秘密基地となる可能性は、ぼくの背丈ほどの希望は、まだ残っている。

嗚呼!
特定の場所の描写は、面倒だ。
クソ真面目に書いたところで、それを見た瞬間、退屈に感じて、億劫になって、読み飛ばされてしまう。
なぜ、そう思うかっていうと、ぼくが、そうだからだ。

面倒臭いところを押して、箇条書き。


海岸沿いの 公団型集合住宅
古い
廃墟

でっかいサイコロ みたい
一階ニコイチ 二階もニコイチ

丘側は 土砂で埋(うず)もれ
その上を 人力で均した道
軽トラなら 走れそう

海岸側にも 土砂が回り込む
埋もれかけた 防波堤
不陸凸凹の 駐車場跡
剥がれた白舗装 セメントが散乱
それも半分近くは 土砂に隠れる

遮断された 狭い沿岸道路
崩壊した防波堤 割れた地面

駐車場側に 集合住宅の出入口
鉄の扉が 一枚
解錠されたまま 半開き
ゴミ出しの通用口 か

中は セメント囲い
コンクリートの 打ち放し
外も そんな感じ

一階の二戸 施錠
二階の一戸目 施錠

残りの一戸 無施錠

この扉も 鉄
ギッ! と鳴って軋(きし)む
そっと 開ける

中の様子は 秘密(......基地)
電気ガス水道のない 生活

以上 おわり 


2020年10月8日(木) 活きた朝 3:49
少年、スピア


令和2年10月10日(土)号
一息 40【スピアの後裔記】入江探検(ぼくに「生きたい!」と思わせた不思議な時空。廃墟の公団型住宅)『離島疎開7』

◎ 後裔記の発祥について

寺学舎に通っていた学童たちが、日常を書き留めていた日記です。寺学舎は、瀬戸内で嘗て古(いにしえ)の時代に栄えた港町にありました。
学童たちは、その港町に隣接する寂(さび)れた浦々に住んでいました。そこは、平家の敗残兵が密かに身を隠して今に到っていると、今に伝えられている地です。
『平家物語』巻第十一では、彼らの祖先を率いた名将の武勇が、描かれています。この浦々から谷川沿いに峠を上り、尾根を越えると、その先に、原っぱが拡がるような町が現れます。その地が、彼らの先祖が最期を飾った古戦場です。本来なら、『末裔記』と呼ぶべきでしょう。でも、日記を書き始めた学童たちの子孫は、『後裔記』の名を、歴史に残しました。子々孫々の子どもたちは、日記を書き始めた大先輩たちの心情を、慮(おもんばか)らずにはいられなかったのでしょう。

◎ 後裔記の現在について

かつて栄えた港町にあった寺学舎は、今は存在しません。お寺の講堂の佇まいは変わっていませんが、そこに集う学童たちの姿は、もうありません。
隣接する寂れた浦々では、子どもたちの姿を見ることさえ、稀になってしまいました。でも、その浦々の隠れたところで、寺学舎を継ぐ家塾が存続していたのです。
2020年2月、その家塾に集っていた学童たちの後裔記を、メルマガという手段で公開しました。その8月、彼らは、天災とも人災ともつかない災難によって、離島へと疎開して行きます。学友たちと住まいを隔て、島を隔てて独学を余儀なくされた少年少女たち。貧しい彼らですが、メルマガやブログといった少々古臭いテレスタディで、今も学友たちの後裔記から多くを学んでいます。彼ら彼女たちは、この後裔記を「元気が出る日記」と呼び、然修録を「元気が出る感想」と呼んでいます。

◎ その然修録とは?

このメルマガの姉妹編です。配信本文の脚注欄と『バックナンバー』に、上記のような説明書きを載せています。

◎ 今に残る寺学舎の用語集

〈1〉少年/少女 → 学徒 → 門人 → 学人
 寺学舎の学年の呼び方です。

〈2〉ミワラ〈美童〉
 立命期の学童たちの呼称です。
 学人となったのち、知命するまでが立命期です。
 「生まれもった美質を護ってほしい」
 という願いが、込められています。

〈3〉美童名(みわらな)
 産れてから知命するまでの名前です。
 武家社会の幼名のようなものです。

〈4〉息直術(そくちすい)
 行動の学と呼ばれ、後裔記は、その行動の足跡です。

〈5〉恒循経(こうじゅんきょう)
 目的の学と呼ばれ、然修録は、その目的の道標です。

〈6〉タケラ〈武童〉
 運命期の学童たちの呼称です。
 知命したのち、天命に到るまでが運命期です。

◎ 後裔記『離島疎開』編について

寺学舎最盛期の塾生だった我々編纂有志でさえ、現役多感なミワラたちの日記(後裔記)の行間を読むことは、正直を申し上げると、たいへん困難なことです。
それ故の策として、亜種記『運命の孝、闘う宿命』を諸書とさせて戴きながら、ミワラたちの後裔記を読み解き配信をしておるところでご座居ます。
ちなみに〈諸書〉とは、編纂のための参考図書のことです。
みなさんよくご存じの聖書に到っては、この諸書の数々のみで成り立っているそうです。

◎ メルマガ姉妹編のご案内
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ミワラ〈美童〉たちの元気が出る感想、然修録です。
https://www.mag2.com/m/0001675353.html

◎ バックナンバーのご案内
http://www.akinan.net

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