Japanize Destinies Distribution JDD 東亜学纂 (とうあがくさん)

Japanize Destinies Distribution 東亜学纂

『亜種記』『息恒循』『然修録』『後裔記』

一息 26【納品した部材にキズ。何十本の中の1本。見て見ぬ振り。自分の心にキズ発見。こちらは1本限り】少女、ツボネエ

みなさん、こんばんは。
【後裔記】です。
毎週土曜の夜7時。
今夜も、お届けいたします。
「行動と目的の学」を実践する子どもたちの日記。
読み切りで ♪

エスノキッズ 心の学問「自伝編」
令和2年7月4日(土)号。


一つ、息(いきを)つく。

知った顔の男の子が、わたしを訪ねてやってきた。

同い年。
いつも尻込みするタイプ。
寺学舍に通いたいのに、いまだ武童名も決められない。
武童名がないと、《 少年 》を名乗れない。
だから彼は、《 男の子 》!

彼の来訪の目的不明のまま、時は止まってくれない。

「あんたの家族、なんかみんな、元気ないねえ。
貧乏だから?
理由にならないよ。
だってこの町に、貧乏じゃない人なんていないんだから。
てか、違う?
あんたさあ。
ちょっとは喋りなさいよッ!」
と、わたし。

「今朝起きたら、窓から涼しい風が入ってきた。
気分のいい朝。
だから母さん、元気がない」
と、その男の子。

この先、まどろっこしい会話が続く。
書きはじめただけで、イライラする。
なので、要約して解説する。

そいつ、うちわを売ってる。
渡船場の待合室の前で。
涼しいと売れない。
だからそいつの母さんは、元気がない。

そいつが今朝、家を出るとき、空が曇ってきた。
そいつの母さん、一瞬笑顔を見せたけど、またすぐに元気がなくなった。
そいつの兄ちゃんが、傘を売ってる。
屋根のあるバス停で。
(雨が降れば、長男の傘が売れるだろう)
と、母は思う。
ちょっと、笑顔。
(でもそうなると、次男のうちわは売れないだろう)
と、母は思う。
またすぐに、元気がなくなる。

そこで、わたしが言った。

「そういえば、あんたの母さん、外で見ないねえ。
不安や心配は、人の手や足の動きを止めっちまうのさ。
あんたの母さん、このままだと、心も身体もバランスを失って、本当に病気になっちまうよ。
言ってやんなッ!

『晴れた日は、ぼくのうちわが売れる。
雨の日は、兄ちゃんの傘が売れる。
どっちに転んだって、めでたしめでたしじゃん。
曇りの日と涼しい日は、ぼくと兄ちゃんは休み。
代わりに母さん、何か売って来てよッ!
そうだ。
傘とうちわを売って、たい焼き機を買おうよ ♪
まいにち、まいにち、ぼくらはハッピーさァ ♪ 』

てねッ♪

人間、変わるのって、難しいって思うだろッ?
当然さ。
ものには、順番ってもんがあるんだよ。
まずは、捨てる。
悲観的だなって思った考えは、片っ端からバンバン捨てる。
捨てるだけで、それまでの自分とオサラバするだけで、変われるんだ。
簡単だろッ?
呆気ないだろッ?」

するとそいつ、にわかに元気な顔になって、わたしに唐突なことを訊いてきた。

「ねえ。
なんで武童名を名乗らないと、少年って呼んでもらえないの?
なんで少年って呼んばれるようにならないと、寺学舍に入れないの?
なんで知命の前に、武童名を決めなきゃなんないの?」

(元気なやつも、元気じゃないやつも、考えることは一緒だな!)
ってわたしは思ったけど、わたしの場合は、もっと簡潔に訊いた。
スピアに。
理由。
一番、話が短そうだから。
予想的中。
たぶん。


スピアは応えて、こう言った。

「生まれたときにもらう名前は、天命に到るときに名乗る名前なんだ。
その前に、その名前を傷つけても穢(けが)してもいけない。
だから、隠しとくんだ。
運命を歩むときは、武童名を使う。
傷つきまくって、穢れまくる。
生まれ持った美質を守りながら、武の心を養う。
以上。
じゃあね ♪ 」

(そんな傷つきまくって穢れまくる人生なんて、まっぴらごめんだわッ!)
ってわたしが思っていると、スピアがクルリとわたしのほうに振り返って、言った。

「《 心配 》は要らないから、そのへんに捨てちゃいなよ。

『彼が生涯を賭けて追いかけた夢は、ただの幻だった』

周りの人は、みんな、そう言ってた。
彼っていうのは、ぼくのじいちゃんのこと。
でもぼくは、そんなふうには思えないんだ。

夢さえしっかり持っとけば、必ず絶望から救われる。
また、明るい未来が、やってくる。
未来を明るくするのも暗くするのも、自分次第。
思いのまま。
当然だよね ♪
自分が持ってるんだから、自分の未来なんだから、自分で自由に決められる」

そしてスピアは、ゆっくりと歩きだした。
一歩、一歩。
ゆっくり。
特に一歩目は、ゆっくりだった。
意味ありげーぇに。

「雨の日だって、風の日だって、貧乏だって、最初の小さい第一歩くらい、誰にだって踏み出すことができる」

と、スピアの背中から、そんな声が聞こえてくる。
誰にともなく、自分に言い聞かせるような声だった。

後日談。

近所の家の建て替えの工事現場。
棟上げ式。
屋根の上から、紅白餅やお菓子が降ってくる。
スピアが、餅もお菓子も拾おうとはせず、ただ突っ立って賑やかな光景を眺めていた。

スピアが、言った。

「じいちゃんが、言ってた。

『家を建てるときに一番大事なのは、基礎の工事だ。
その部材を納品したときに、キズを見つけたら、どうする?
何十本の中の、1本だけ。
悪い結果の想定を、すべて打ち消してゆく。
見逃す。
心に、小さなキズがつく。
それも、見逃す。
絶対に、いいことにはならん。

目標は、常に遠くに置かねばならん。
動かねば、行動せねばどうにもならんところになければ、それは、目標とは言わん。

目標とは、自分のあるべき姿だ』

てねッ ♪ 」


わたしを訪ねてきた同い年の男の子を、玄関先まで見送った。

わたしは、言った。

「たい焼き機、買えそうになったら、遠くのほうに、また新しい目標を持つんだ。
『港の近くの空き家を借りて、たい焼き屋を開くんだァ!』
とかさッ ♪ 」

そのことがあってからだ。
その男の子、わたしと目が合うと必ず、ニコッと微笑む (^o^;)


令和2年7月4日(土)号
一息 26【納品した部材にキズ。何十本の中の1本。見て見ぬ振り。自分の心にキズ発見。こちらは1本限り】少女、ツボネエ

【行動と目的の学】

江戸期の儒学者たちは、学問を一つの型にして、学校や家庭に根付かせました。

その型が崩壊した現代、廃残したわたしたち民族には、新たなる型が求められています。

美質を生まれ持った子どもたちは、戈(ほこ)を止(とど)めると書く武の心を修めるために、東亜の行動哲学、西洋の目的心理学、民族史と神話、未来と過去の脚本技術などを学んでゆきます。

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『亜種記』『息恒循』『然修録』『後裔記』
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